Category : GRICI

1週間前

中国建国70周年へのアメリカの姿勢と香港人権・民主主義法案【中国問題グローバル研究所】

【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉氏の考察となる。

———

アメリカは日本の安倍首相等による祝意表明と違い、駐米中国大使が祝辞を述べただけだ。それどころか米議会は「香港人権・民主主義法案」を可決。中国はアメリカを猛攻撃し、対日米の対比が鮮明になった。

◆アメリカからの祝辞
9月28日、中国の中央テレビ局CCTVはアメリカからの中国建国70周年記念への祝辞を報道した。しかし前日の安倍首相による祝賀ビデオメッセージをほぼ全文、長い時間をかけて報道したのとは対照的に、駐米中国大使・崔天凱氏の中国大使館(ワシントン)における録画が報道されただけだ。

CCTVが放映したのと同じ動画は「これ」(※2)をクリックなさると、ご覧いただくことができる。

祝賀セレモニーに参加したのは在米の華人華僑団体とアメリカの親中派関係者だけで、アメリカ政府関係者としては唯一、労働省の前次官Samuel Mok (莫天成)氏(華人)が出席し、崔天凱大使と歓談したり写真を撮ったりしている場面が映し出されただけだ。

莫天成は香港デモに関しては実に批判的で、北京政府のやり方を応援している。
8月22日に中国政府側の中新社の取材を受け、「香港は混乱状況を継続すべきではない」(※3)と主張している。接続が不安定だが、動画はこちら(※4)で見ることができる。

アメリカからの中国大使館における祝賀画面が終わると、ブルネイなどいくつかの国の中国大使館での祝賀セレモニーを放映したが、安倍首相の挨拶など日本からの祝賀メッセージ報道と違い、アメリカ同様、あくまでもその国における中国大使館でのセレモニーを放映したに過ぎない。その国の首脳が大写しになってビデオメッセージを発信したのは、日本だけだったということになる。

◆続けてアメリカ批判——米議会「香港人権・民主主義法案」
安倍首相の満面の笑みを浮かべた祝賀メッセージの後に、27日のCCTVはトランプ大統領の弾劾調査手続きに関する報道へと切り替えたが、28日は、駐米中国大使の祝賀メッセージの後に、米議会上下両院の外交委員会が「香港人権・民主主義法案」(以後、「法案」)を可決したことを、突如厳しい表情で報道した。

「法案」は6月に提議されたもので、9月26日に米議会上下両院の外交委員会において全会一致で可決された。

アメリカは米中国交正常化の時も、「中華民国」との断交を北京政府から強要されたため、やむなく断交と同時に国内法で「台湾関係法」を制定している。
同じように香港がイギリスから中国に返還されると同時に(1997年7月1日)、国内法として「米国・香港政策法」を制定した。香港が「一国二制度」の下で中国に返還されたのちも、本当に「二制度」により「民主や自由や香港の自治」が守られているなら、これまで通り通商や投資においてアメリカの対香港優遇措置を続けるとしている。

こういった政策は1980年代半ばから香港返還までの間に、米英間で討議されてきたもので、だからこそ最高裁判所の裁判官に裁判長以外は、外国籍を認めると、香港基本法で謳っているのである(参照:9月24日付コラム<香港最高裁・裁判官17人中15人が外国人——逃亡犯条例改正案最大の原因>)(※5)。

それが破られるなら、当然のことながら返還時に約束した対香港優遇措置は認められなくなるので、アメリカ政府は「香港の自治が守られているか否か」を監督し、米議会に報告する義務があるというのが米議会の主張だ。

それだけではない。「法案」では行政長官や立法会議員(国会議員に相当)を選ぶ権利を香港市民に与え、「一人一票」の原則を守れということにまで踏み込んでいる。

中国政府が激怒しないはずがないだろう。これは2014年の雨傘運動において決着が付いたことであり、香港を司る、中国の最高立法機関である全人代(全国人民代表大会)常務委員会で決議した事項に抵触すると、中国政府はアメリカを糾弾している。

こうして、CCTVは「法案」に対して、「内政干渉だ!」と激しい抗議を繰り返しているわけだ。

◆米中貿易戦最前線に対する中国政府の回避策
この「法案」は米中貿易戦争を反映したもので、「法案」をテコに米中貿易交渉への威嚇を強めようというアメリカの意図は明らかだ。

ところが、それを先読みしている中国は、広東・香港・マカオ(澳門)をつなげた「粤港澳大湾区経済構想」(ビッグベイエリア経済構想)を構築し、深センを社会主義先行モデル区に再指定した。これに関しては8月20日付のコラム、<「こっちの水は甘いぞ!」——深センモデル地区再指定により香港懐柔>(※6)に書いたが、習近平政権は「中国の金融センターを、香港から深センに移そうとしている」のである。

そうすれば、アメリカが香港をテコに米中貿易に圧力を掛けてこようとしても、中国は痛くない。深センの水の方がずっと甘いので、怖くはないという構えだ。
だから米中貿易戦争に関しての香港の役割には中国は怖気づいてないが、香港がもしかしたら中国共産党の一党支配体制を揺さぶる砦になるのではないかということに関しては怖がっているだろう。

特に武力弾圧などをすれば、国際世論が中国、北京政府を許さない。どんなにそれを避けるためにグローバル経済でアメリカを除く他の諸国との連携を深めていても、再び天安門事件後の経済封鎖を受けないとも限らない。

それを避けるための「駒」が「日本」なのである。どのようなことがあっても「日本」を味方につけておきたい。日本が中国と蜜月でありさえすれば、中国は中国共産党による一党支配体制を維持することができる。天安門事件後の対中経済封鎖に関する「成功体験」が中国にはあるのだ。

この構図に、日本は気づいているのだろうか?

アメリカは1992年の日本の天皇陛下訪中により解除されてしまった対中経済封鎖に便乗してしまい、「中国が経済的に繁栄すれば、きっと民主化するだろう」という幻想を抱いて中国に猛烈に投資し、やはり中国を巨大化させることに手を貸してしまった。その幻想と(アメリカにとっての)裏切りに気づいたアメリカは今、中国への強硬姿勢を強化している。

しかし日本はどうか?あのときのアメリカのように幻想を抱き続けているのではないだろうか?

目先のビジネスが切羽詰まっていることは理解できる。しかし長期的戦略がなければ、最後に笑うのは誰になるのか、国家には責任がある。その責任は重い。

(本論考はYahoo!ニュース「個人」におけるコラムからの転載である。)


※1: https://grici.or.jp/

※2:http://baijiahao.baidu.com/s?id=1645901673561258855&wfr=spider&for=pc

※3: https://news.sina.com.cn/o/2019-08-23/doc-ihytcern3017768.shtml

※4: http://www.chinanews.com/shipin/cns/2019/08-25/news828830.shtml

※5: https://grici.or.jp/648

※6: https://grici.or.jp/544

<SI>

1週間前

安倍首相の祝賀ビデオメッセージが中国のCCTVで大写し——中国建国70周年記念【中国問題グローバル研究所】

【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉氏の考察となる。

———

安倍首相等数名の日本政財界関係者等による中国建国70周年記念を祝賀するメッセージが27日、CCTVで大きくクローズアップされ延々と流された。米中関係悪化における中国の意図と日本の位置づけを考察する。

◆CCTVお昼のニュースでほぼ全文公開
9月27日、お昼の中央テレビ局CCTV4(国際)で長い時間を使って、安倍首相の中国建国70周年記念を祝賀するビデオメッセージが放映され、思わずCCTVの画面に釘付けになってしまった。

本当とは思えないような、「あっ!」と声を出てしまいそうなニュースだったが、それが本当であることを示すサイトはいくらでもある。

たとえば「安倍晋三の新中国成立70周年を祝うビデオメッセージ、中国語も少し交えて」(※2)をご覧いただくと、安倍首相の日本語による祝辞を、そのまま聞くことができる。このメッセージは、多くの中国のウェブサイトに転載されて、全中国に拡散していったと言っても過言ではない。

その一例として「大河報網」(※3)や、環球網の報道(※4)などがある。これは9月26日の夜、駐日本国中国大使館で開催された中華人民共和国成立70周年記念式典に安倍首相が寄せたビデオメッセージが基になっているので、その日本語の全文と比較する。

括弧で括ったのがCCTVでは報道されなかった部分だ。最初に言っている「ダージャー・ハオ!」は中国文字では「大家好!」で、「皆さん、こんにちは」という意味だ。全文は以下のとおりである。

—— 「ダージャーハオ!皆さんこんばんは。安倍晋三です。中華人民共和国が建国70周年を迎えられたことに対し、日本国政府および日本国民を代表し、心から祝意を表します。
(本年は中国が建国70周年を迎え、日本が平成から令和へと新たな時代を迎える節目の年です。日中両国が良い雰囲気の中で、それぞれにとって記念すべき年を迎えられることを大変喜ばしく思います。)
6月のG20大阪サミットでは、日中両国が成功に向けて協力し、G20としての力強い意志を大阪首脳宣言を通じて世界に発信することができました。サミットに先立ち行われた日中首脳会談と夕食会では、来春に習近平国家主席を国賓として日本にお迎えすることについて首脳間で一致し、日中新時代を切り拓いていくとの決意を共有することができました。
日中両国はアジアや世界の平和と繁栄に共に大きな責任を有しています。両国が地域や世界の課題に協力して取り組み、国際社会への貢献を共に進めることは、両国の新たな未来の姿を築くことにつながると確信しています。
(今、私たちはその新しい歩みを始めました。そして、来春の習主席の国賓としての訪日は、両国の新たな未来の姿を打ち出す上で、またとない重要な機会です。日中新時代にふさわしい、有意義な訪日にしていきたいと思います。)
最後に、日中関係のさらなる発展、ご列席の皆さまのますますのご健勝をお祈り申し上げまして、私の祝辞といたします。ありがとうございました。謝謝!」

以上だ。最後の「謝謝(シェシェ)」は皆さんご存じのように「ありがとう」の中国語である。このような長いメッセージを、お昼のニュースとは言え、ほぼ全文公開するというのは、前代未聞と言ってもいいだろう。

それだけではない。続いて公明党の山口 那津男代表、慰安婦問題に関する「河野談話」で知られる河野洋平氏、日中議連(日中友好議員連盟)会長の林芳正議員(自民党)、かつて映画「君よ 憤怒の河を渡れ」で中国で人気を博した女優の中野良子さんなどの大写しの顔とメッセージが放映され、経済界からもメッセージが寄せられた。

◆米中貿易戦争と日本への甘い誘い
米中の仲が悪くなったら、中国は必ず日本に微笑みかけてくるというのは常套手段ではあるものの、この日も日本の政財界からの一連の祝賀メッセージの報道が終わると、いきなりトーンを変えてトランプ大統領への弾劾調査手続きが始まったことを、強い口調で放映し始めた。その露骨なまでの対比に、これもまた唖然として思わず前のめりに画面に食い入ってしまった。

習近平国家主席が安倍首相のこの「友好的」な姿勢を、どれだけ歓迎していることか、考えただけでも空恐ろしい。

今年1月24日付のコラム「日ロ交渉:日本の対ロ対中外交敗北(1992)はもう取り返せない」(※5)の後半のグラフに示し、また昨年10月16日付のコラム「日本は中国との闘い方を知らない」(※6)で詳述したように、日本は1989年の天安門事件後の西側諸国による対中経済封鎖を解除させて、今日の中国の繁栄をもたらした。

その結果大国になってしまった中国に、又もや跪いて、今度は中国にアメリカを凌駕させるチャンスをプレゼントしようとしている。

日本経済を成長させるためには致し方ないという考え方もあろうが、その結果、言論弾圧をする一党支配の共産主義国家が全世界を制覇することになるのだ。全人類が、あの監視社会と言論弾圧の下にひれ伏すような世界を招くための手助けを、いま日本はしているのである。

かつて、「その先が読めない日本」は、大本営の報道を信じて戦争へと突き進んでいった。その日本の盲目性は、まるで日本の国民性のように今も厳然として存在する。香港の若者たちが、あれだけ命を懸けて「言論の自由」と「民主」を守ろうとしているのに、日本は何をしているのか。

1948年、国共内戦で共産党軍の食糧封鎖により餓死体の上で野宿した経験さえ、大陸では公開することが許されない。そのような言論弾圧をしている中国が、日本政府の目には見えないのだろうか。

筆者がこの齢になってもなお、執筆活動を続けるのは、この言論弾圧と闘っているからだ。そのためには何があっても、警鐘を鳴らし続ける。これは餓死せずに生き残った者の使命だと、自分に言い聞かせている。

(なお、本論考はYahoo!ニュース「個人」に書いたコラムを編集し転載したものである。)


※1: https://grici.or.jp/

※2:http://www.chinanews.com/gj/2019/09-27/8967063.shtml

※3:https://www.dahebao.cn/news/1452108?cid=1452108

※4:http://baijiahao.baidu.com/s?id=1645790270956446164&wfr=spider&for=pc

※5:https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20190124-00112227/

※6:https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20181016-00100661/

<SI>

2か月前

「中露朝」のシナリオに乗った韓国のGSOMIA破棄【中国問題グローバル研究所】

【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉氏の考察となる。

———

韓国のGSOMIA破棄は、習近平を中心とした「中露朝」のシナリオ通りに動いている。竹島上空での中露合同軍事演習、米韓合同軍事演習による金正恩の激怒、トランプのINF離脱。待つは日韓の決定的な関係悪化だった。

◆中露軍事演習は日米韓協力のゆるみ度を図るリトマス試験紙

韓国が主張する防空識別圏内に入るとする(日本の領土である)竹島上空で、7月23日に中露の戦略爆撃機と早期警戒機が飛行した。韓国軍用機は韓国の領空を侵犯したとして警告射撃をしたが、菅官房長官は「竹島の領有権に関するわが国の立場に照らして到底受け入れられず、極めて遺憾であり、韓国に対し強く抗議するとともに再発防止を求めた」と語っている。


中露は、これはあくまでも「中露の包括的な戦略的パートナーシップを強化するための中露合同軍事演習の一環に過ぎない」と反発。特に中国は2017年の第19回党大会で党規約に「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」を書き入れてからというもの、何にでも「新時代」を付け、この軍事演習を「新時代の中露間の包括的な戦略的パートナーシップである」として、今後も常態化するだろうと述べている。


その翌日の7月24日に中国は「新時代の中国国防」白書を発表し、同様に中露の戦略的パートナーシップを強調している。


それならなぜ中露はわざわざ「竹島」上空を狙ったかと言えば、それは明らかに日韓関係の悪化によって、どれくらい日米韓の協力関係に「ゆるみ」が出ているかを試すためのリトマス試験紙の役割を果たしたと言えよう。


6月に習近平国家主席が訪露し、プーチン大統領と会った時には、日韓関係はすでに徴用工問題の韓国最高裁判決に対して非常に険悪化していた。7月1日には半導体材料に関する輸出審査を厳格化すると日本は韓国に言い渡し、日韓関係はさらに悪化の一途をたどっていた。


米中貿易摩擦でアメリカと対立している中国と、2月にアメリカから中距離核戦力全廃条約(INF=Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty)からの離脱を正式通告されていたロシアは、今やアメリカを軍事的にも共通の強烈な敵としている。


中露は新しい東アジアのパワーバランスを求めて、何とか韓国を「日米韓」の軍事的協力体制から引き離したいと企んでいた。


そのために中露両軍は韓国が不当にも韓国領土と主張する日本の領土である「竹島」を狙ったのである。


案の定、菅官房長官は「韓国に対する抗議」を表明してくれた。

これで第一段階の中露の作戦は成功している。

◆米韓合同軍事演習に激怒した金正恩委員長

四面楚歌となりつつあった韓国の文在寅政権は、「それでもアメリカにだけは見放されまい」として、この期に及んで(8月5日)米韓合同軍事演習に踏み切った。武力を伴わないシミュレーションであるとはいえ、北朝鮮の金正恩委員長は激怒。トランプ大統領にではなく、文在寅に対して「二度と同じテーブルに就くことはない」と言い放ち、怒りを全開にした。

うろたえたのは文在寅だろう。
何せ彼にとっての唯一の自慢は南北融和のために金正恩と会い、トランプとの仲介をしたことだと、きっと思っているだろうから。また、日本に対抗して「北朝鮮と一体となって経済発展をさせるから、今に韓国の経済は日本を追い抜く」と豪語していた文在寅は、その意味においても立場を無くしてしまった。


日韓のGSOMIA(ジーソミア。軍事情報包括保護協定)は主として北朝鮮(や中国)の軍事動向をいち早くキャッチして情報を日韓の間で共有するのが目的だ。北朝鮮は早くからGSOMIAに抗議し、韓国に破棄を迫っていた。

破棄を迫っているのは中国も同じである。


「お前はどっちの味方なのだ」と北からも中国からも言われて、文在寅はいよいよ四面楚歌なのであった。

◆決定打は日中韓外相会談——ポストINF中距離弾道ミサイル

決定打は8月20日に北京で行われた日中韓の外相会談だ。

アメリカはロシアとのINFから脱退し、その補強としてアメリカの中距離弾道ミサイルを、韓国をはじめとした東アジア諸国に配備しようとしているが、中韓両外相の会談において、中国側は韓国に強く反対の意思を伝えたという。韓国側は韓国に配備する可能性を再度否定したので、中韓の距離が縮まった。その上でのGSOMIAの破棄なのである。


1987年に当時のソ連とアメリカとの間で結ばれたINFには、中国は入っていない。それを良いことに中国は東風-21(DF-21)(射程距離2150~3000キロ)や東風-26(DF-26)(射程距離4000キロ)などの中距離弾道ミサイルの開発に余念がなかった。


中国の中央テレビ局CCTVも中国の軍事力がどれほど高まっているかを誇らしく報道しまくってきた。したがってアメリカとしてはINFから離脱して、さらなる高性能な中距離弾道ミサイルを製造してそれを韓国などに配備し、中国を抑え込んで、新しい東北アジアのパワーバランスを形成しようとしている。


もし韓国がアメリカの指示に従ってポストINF中距離弾道ミサイルなどを配備しようものなら、中国の韓国への怒りはTHAAD(サード。終末高高度防衛ミサイル)を韓国に配備した時のような経済報復では済まず、中韓国交断絶にまで行くだろうと、中国政府の元高官は筆者に教えてくれた。


中国は、高度で重要な戦略であればあるほど表面に出さないので、日本ではここまでの事態が進んでいると思っている人は多くないと思うが、これが実態だ。


アメリカのエスパー国防長官が8月2日からオーストラリアや日本、韓国など東アジア5ヵ国を歴訪したのだが、これに関して中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」は「オーストラリアもポストINFの中距離弾道ミサイル配備を断ったが、韓国も断っている」と、まるで「勝ち誇った」ように報道している。この報道から中国の心の一端を窺い知ることができよう。この時点で韓国の国防関係のスポークスマンは「韓国はポストINFに関してアメリカから頼まれてもいないし、論議もしてない。もちろん受け入れるつもりはない」と言っているが、それでも信用できずに、中国側は韓国の康京和外相に、8月20日の韓中外相会談の際に最後のダメ押しをしている。これに関しては、韓国の一部メディアが報道しているが、筆者はインサイダー情報として知るところとなった。


東アジアの新しいパワーバランスは、このようにして激しい闘いを展開していたのである。

◆韓国のGSOMIA破棄宣言で反応した「中露朝」

韓国がGSOMIA破棄を発表したのは8月22日だが、その直後に何が起きたかを見てみよう。


まず中国:8月23日にアメリカの対中制裁関税「第4弾」への報復措置として約750億ドル分(約8兆円)のアメリカ製品に5~10%の追加関税をかけることを決定した。


次にロシア:8月24日、北極圏に近いバレンツ海から潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「シネワ」と「ブラワ」の発射実験を行い、成功したと発表した。

そして北朝鮮:8月24日、短距離弾道ミサイル2発を発射した。

このように「中露朝」ともに、韓国がGSOMIAを破棄した瞬間に「もう大丈夫」とばかりに、まるで示し合わせたように、アメリカに対して挑戦的な行動に出たのである。


特に、この最後の北朝鮮のミサイル発射に関して日本の関心は、「日本と韓国のどちらが先に情報をキャッチしたか」ということに集中し、いま日本を取り巻く状況がどのように変化しているのか、どのような恐るべき事態が進んでいるのかに関しての関心は薄い。

そのことの方がよほど危険だ。


筆者は7月3日付のコラム「中露朝が追い込んだトランプ電撃訪朝」で、「中露朝」が早くから組んでいることを警告してきたが、それを本気にする日本人は多くはなかったように思う。


日本の国益のために、より多くの日本人が、もっとグローバルな視点で日本を考察してほしいと願わずにはいられない。


※1:中国問題グローバル研究所
https://grici.or.jp/

この評論は8月25日に執筆

<SI>

2か月前

「こっちの水は甘いぞ!」深セン モデル地区再指定により香港懐柔【中国問題グローバル研究所】

【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している遠藤 誉氏の考察となる。

———

8月18日、中国は深センを社会主義先行モデル区に再指定した。その目的は「広東、香港、マカオ」を連結した粤港澳大湾区経済構想を通して一国二制度を完遂し、香港を懐柔することにある。そのために深センを利用。

◆中共中央・国務院の指示
8月9日、中共中央・国務院は「深センを中国の特色ある社会主義先行モデル区に指定することを支持することに関する意見」(以下、「意見」)を発布したと、8月18日の新華社電が伝えた。

中国では「~に関する若干の意見」という言い方を毛沢東が始めたために、最高権威の指令は、よく「~に関する(若干の)意見」という形で発布される。

「意見」の冒頭では、概ね以下のようなことが述べられている。

1.深センは改革開放を始める際の経済開発特区として大きな役割を果たしてきたが、今や最も活力と魅力あふれる国際化したイノベーション型都市に成長した。

2.(習近平思想で明記したように)現在、中国の特色ある社会主義国家は新時代に突入した。それに沿って深センが新時代の改革開放の旗を高く掲げることを支持し、深センを中国の特色ある社会主義のモデル地区に指定する。

3.それは必ずや「粤港澳(えつ・こう・おう)大湾区」の発展戦略実現に利し、「一国二制度」の事業発展の新実践を豊かなものに持っていくことだろう。

この「粤港澳大湾区」とは、「広東(粤)・香港(港)マカオ(澳)(澳門)」を結びつける「グレーターベイエリア」のことで、この構想自身は2017年から提唱されていたが、2019年2月に中共中央・国務院が正式に発展綱要を発布し、本格的に動き始めた。当初は世界三大ベイエリアと呼ばれているニューヨーク・サンフランシスコ・東京に匹敵するベイエリアを創出する計画となっていた。

しかし今や世界三大ベイエリアと「同等」ではなく、世界一に輝く最先端都市としての発展と繁栄を目指すものとして新たな構想を発布したわけである。

こういった「意見」では、最も重要なものが最後に書いてあることが往々にしてある。今回もご多分に漏れず、主眼は香港を対象とした「粤港澳大湾区」にあることは明白だ。

◆香港の親中青年に語らせる
その証拠に中国共産党の機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」に「中国の特色ある社会主義先行モデル区深センを建設——専門家:香港の青年が国家の大局に融けこむ助けになる」という小見出しの記事を掲載している。

そこには以下のような記述がある。
——「意見」の発表は香港の各界で大きな反響を呼んでいる。香港は経済や民政に力を注ぎ、積極的に粤港澳大湾区建設に融けこみ、このチャンスを逃さないようにしなければならない。たとえば、香港菁英会社会民生研究会主任の高松傑氏は「このたびのこのような優遇措置は、われわれが大々的に融合することを可能にし、われわれ香港の青年が国家の大局に融けこむことを可能にする」と語っている。

香港青年の言葉にある「このような優遇措置」とは、「意見」の中に書いてある「深センで働き生活をする香港マカオの居住民たちに深センの市民権を与える」という一文を指している。

これではまるで、「香港を捨てよ」と呼び掛けているようなものだ。

◆こっちの水は「アーマイ」ぞ!——香港を骨抜きにして「一国二制度」を完遂

それ以外にも「意見」では、

(1)深センに国家科学センターを設立して、「5G、AI、IT、バイオ」などのハイテク研究室の設立を支援する。

(2)深センにおける国有企業を改革し、自由貿易区域を設置する。

(3)憲法や法律および行政法規などを順守するという前提のもとに、イノベーション改革実践のニーズに応じて、深セン独自の法律、行政法規あるいは地方性法規の制定の自由を一定程度認める。

というのがある。明示的に書かれてはいないが、おそらく深センにおいては土地所有の申請に関しても簡素化され、さらに「東莞市」を最終的に深セン市に組み込む可能性さえ考えられる。
実は香港の発展を制限している重要な原因の一つに土地が狭いという問題がある。香港市民は日常生活においても道が狭くて交通渋滞に悩まされている。香港と深センが一体化され土地問題が解消されるというのなら、土地の狭さに悩まされている香港市民の心は動くにちがいない。結果、香港市民が深センに移住して市民権を得て恩恵を受ける道を選ぶかもしれないと、北京は計算しているのである。

「こっちの水はアーマイぞ!」と香港市民を誘い込んでいるようなものだ。こうして次々に深セン市民となってしまえば、香港は骨抜きになり、「一国二制度」は北京の思うままになるという計算だ。
この「意見」は、今後粤港澳大湾区の中心が深センとなり、今までのように香港に資源を注ぎ込むことがなくなるという政策でもある。その線で考えると、深センが直轄市に昇格する可能性も否定できない。
習近平は同時に、米中攻防における対抗馬を打ち出してきたということもできる(これに関しては別途考察する)。
以上が「意見」の持っている真の意味である。


※1:中国問題グローバル研究所
https://grici.or.jp/

この評論は8月20日に執筆

<SI>